65 渡り銀座の子育て

 馬毛島の基地計画に関する環境影響評価(アセスメント)準備書で興味深かった事柄の一つに、タカ類のミサゴの繁殖と最高地岳之腰(標高71メートル)との関わりがあります。巣の見つかったミサゴは留鳥とみられます。つがいは2組で、共に3羽のヒナが巣立ちました。これとは別に、つがいではない雌雄の個体も確認されています。
 重要種とされたミサゴやノスリの飛跡を書き込んだ面白い地図があります。ミサゴは海岸部の営巣地を起点に、小高い岳之腰を旋回上昇して反対側の海岸部へ移動します。最高地の上昇気流を利用してエサとなる魚をグルグル探し回っているのです。
 巣は工事区域に近く、準備書は「繁殖に影響を与える可能性がある」と指摘する一方、「採餌範囲の海域は大部分が改変されない。繁殖環境の変化はほとんどない」と述べています。また、航空機との衝突に関して、岳之腰付近に「旋回上昇する飛跡が集中」としつつ、岳之腰が平坦に削られて「旋回上昇が少なくなる」ので、衝突の可能性は減少すると予測しています。
 もし、ミサゴに話を聞いたら「子育てをする巣のそばで、工事の騒音や粉塵は大迷惑。岳之腰が無くなったらハンティングに難儀するし、海まで汚れたらマジ困る。空の戦闘機は避けられず超危険」と言いそうです。
 私は馬毛島でヒヨやムナグロの渡りの大群を見たことがあります。準備書は、秋の渡り時期の48時間に飛跡2万1831を確認したと記します。
 ある鳥類専門家がつぶやいています。「サシバなど秋の渡り群は佐多岬を飛び立って南に向かうけれど、準備書に言及がないなあ」「南西諸島とその南方で越冬するサシバ等が春に北上する際にも馬毛島あたりの通過の状態がどうなっているのかも気になる」と。
 馬毛島は渡り空路の銀座。洋上のオアシスなのです。

渡りの途中、馬毛島に立ち寄ったムナグロの群れ= 2013 年5 月