58 遠くで近づく鳥の声

 北西の季節風がおさまり、障子窓が薄明るくなり始めた早朝、戸外から小鳥の声が聞こえてきました。この季節によく見かけるゼッチャー(ウグイス)、シロハラ、ヒヨドリ、ヤマガラ、それともセキレイか。遠くから近づく小さな鳴き声に耳を傾け、閑静さに気づきました。
  古池や蛙飛びこむ水の音
  閑さや岩にしみ入る蝉の声
 いずれも松尾芭蕉の名句です。解釈をめぐっては、禅の境地であるとか、蛙や蝉の種類とか、論争もいろいろあるようです。私は「閑(しずか)さ」について情景を想像しました。住まいの庵で、あるいは旅の歩を休めた道端で、芭蕉は、一帯の静かさに気づきます。蛙が水中に消え波紋が広がる。岩の奥深くに蝉の声が吸い込まれていく、そんな空間に身を置いて、芭蕉の心も、穏やかさに包まれたのではないでしょうか。
 種子島は、静かな島です。小さな音や声が澄み渡って聞こえる環境があります。大きな騒音が無いというだけではありません。騒音の有無や大小について、「うるさい」とか「さほどではない」とかいう以外に、忘れてはならない観点です。わがふるさとは、静穏という貴重な宝を備えていると、改めて思います。
 コロナ禍が続く中、今年の破魔祈祷は穏やかな日和に恵まれました。現和の田之脇と西俣の破魔行事に参加しながら、沖の瀬にたたずむ海鵜の姿を見、刈田を飛び立つ野鳥の羽音や、神社の境内で一射ごとに歓声や嘆息の広がった空間を思い起こしています。

近所で見かけたウグイス(左)とヤマガラ