50 黒潮アートの港町

 西之表の港町で2011年に始まった「くろしおアートプロジェクト」10年の記念誌「みんなでつくるまちづくり」が完成しました。西町から東町、天神町、鴨女町に至る商店街コミュニティを舞台に、日本と韓国のアーティストたちの協力で「住民のアイデアと才能」「連帯感と結束力」を発揮したコミュニティアートの記録です。
 海産物のトロ箱を解体した板に魚を描き、多数を組み合わせた「木のおさかなアート」は、鯨、ウミガメ、トビウオ、大樹、ロケットなど、小学生らの子どもたちや地域住民が絵付けをして共同制作しました。
 このほか、商店主らの物語を盛り込んだアート看板、人物画の壁ギャラリーは、今や市街地の風景にとけ込んでいます。アートベンチは、島の自然と歴史、文化、地域の日常を題材に、市民のアイデアでデザイン化されました。設置はバス停、商店前、学校、神社、高速船ターミナルなどに30余点。資材の多くはリサイクル材料で、作業場は駐車場やテントを利用しました。
 「ハイビスカスの魚」「ゆめマグロ」などアーティスト制作モニュメントの一つに、種子島火縄銃保存会の事務局長を長年務め、2019年に急逝した小倉達弘さん追悼の作品があります。鉄砲隊姿の小倉さんが、西之表港ターミナルの通路脇で銃を構え、鉄砲伝来の歴史を人々に語りかけています。
 アートディレクターを務めた韓国の金属工芸家ジン・ヨンソブさんによると、最初はアーティストたちの作品が主流でしたが、住民参加により、地域の情緒と特徴に合ったテーマに変化しました。持続可能な地域再生には行政と住民共同体の協力が必要です。ジンさんは、文化を徐々に自分のものにしてきた市民の活動を讃え、「住みたくなる、かつ魅力的な種子島をつくることができるでしょう」と記念誌で述べています。
 わが港町の未来へ、温かいエールです。