47 海鵜と「鎮魂の海」

 北西の季節風の強い一日、大崎塩屋神社前の海岸に立つと、海中の岩に海鵜が2羽、たたずんでいました。春の間近な潮路の先には、馬毛島が横たわっています。聞こえるのは、風と打ち寄せる波の音だけです。
 海鳥は岩の色して浪を聴くこの寂寞に顕つ異人船
 この短歌は種子島の最南端、門倉岬に立つ歌碑に刻まれています(本間アヤ子作)。一語一語をかみしめると、鉄砲伝来の歴史に思いをめぐらせ、ふるさとに根づく諸々の力を授けられる気がしてきます。
 1月の西之表市長選挙で、私は2期目の当選を果たしました。一票を投じた有権者の過半数が「静かな島を守る」と唱えた私を信任してくれました。倍旧の支持に心強く思いつつ、島の経済的基盤や人口減少への懸念など市民の心配も改めて感じています。
 静かな島を守りたい。豊かな暮らしを築きたい。
 二つの願いは、決して相反するものではありません。目的到達へ考えの異なる者同士が意見を交わし、一致団結して歩むべき道筋をつけなければなりません。
 気がつくと、つがいの海鵜は姿を消していました。
 思えば、馬毛島から硫黄島、黒島へと連なる海域には、先の戦争で沈められた戦艦大和と将兵が今も眠っています。戦時中、馬毛島や種子島には艦船兵士の遺体があまた漂着しました。ここは戦没者を悼む「鎮魂の海」とも言えます。馬毛島には遺骨が今も残るといわれます。
 海鳥も水漬く兵士を悼みつる鎮魂の海に馬毛島青む
 先人をしのび、歴史に学ぶ心を保ちたいものです。
 3月から新しい任期に入る私も、島に生きる厳しさと恵みを糧に、未来の子供たちにつなぐべきものを見極めようと思います。

岩の上にたたずむ海鵜と馬毛島