45 樹木たちとの語らい

 推定樹齢五百年のヤクタネゴヨウ「七尋五葉」の切株が種子島開発総合センター「鉄砲館」に展示されています。大人七人が両手をひろげた長さの幹周りから名づけられ、伐採されたのは1947(昭和22)年のことです。市内在住の前田和徳さんがこのほど自費出版した写真集「種子島の樹木たち」は、88(同63)年に万波で掘り上げられる前の切株の姿を紹介しています。
 生姜山の旧鴻峯小学校のヤクタネゴヨウは根の生長不良による倒木の恐れから2016(平成28)年に伐られました。校舎わきから児童らを見守った往時の写真など、前田さんは種子島各地の学校や神社、公園などを訪ね、樹木と人々とのふれあいを活写し、感想をまじえた写真説明を添えています。
 下西小学校で「正門を見張るように」に立っていたセンダンが輪切りにされた写真には、さびしそうに見る児童らの姿があります。旧榕城中学校で無数の赤い実をつけるクロガネモチ、ツマベニチョウの幼虫が葉を食べるギョボク、桜の開花宣言に用いたソメイヨシノの写真は生徒に囲まれた日々を想起させます。
 西之表市街地を見下ろすわかさ公園で「昇り龍のごとく」生長したクロマツでは「この木の上を平均台のようにして遊ぶ」子供たちがいます。国上・湊では湊川河口のガジュマルの木陰から住民の声が聞こえてくるようです。
 民俗芸能の奉納でにぎわう古田・豊受神社や上西・横山神社のイチョウ、安納・軍場神社のヤマザクラ、現和・西俣公民館のアコウ、国上・太田のヘゴ群落、住吉漁港のガジュマル防潮林、東町公園などのインドゴムノキ……、どのコマにも大事な記憶がこもります。前田さんの写真集で、人々を癒やす地域の樹木を知り、島の自然の豊かさを改めて思いました。

「七尋五葉」の切株と復元した幹部分