38 ニガダケのある生活

  新型コロナウイルス流行で、3月の市内開催が中止された文化講演会
の講師湯浅邦弘教授(大阪大学、中国古代思想史)の近著「人生に効く『菜さいこんたん根譚』」(角川書店刊)を読みました。「菜根譚」は、明代末の儒者洪応明(字は自誠)が著した処世哲学書です。
 月刊誌の連載を単行本にした24編の一つ「時間をかければ突破できる」
には、種子島の千ちくら座の岩屋が紹介されています。長い歳月をかけて荒波が岩を穿うがった浸食洞窟を見て、湯浅教授は菜根譚の「縄も鋸のこのように木を断つことができ、水滴も石を穿つことができる」という言葉を連想したそうです。時間には、持続がもたらす突破力もさることながら、苦しみ悲しむ心を癒す力もあると綴っています。
 島の時間に思いを致す5月、古田地区でニガダケ収穫の入山式があり、竹山の入り口を塩と焼酎で清め、山の恵みに感謝しました。料理法は湯がく、焼く、煮物、天ぷら、味噌汁と多彩。地域住民の生産組合が島外にも出荷し、ふるさと納税の返礼品としても人気上昇中です。
 竹山の斜面歩きは健康づくりになるし、地べたに座って皮をむきながらおしゃべりをして、時間がゆったり流れます。海辺では、佃煮が絶品のアザミ取りも盛んです。地面の敷物に腰を下ろし、鎌でトゲ部分を削ぎながら、こちらも世間話がはずんでいます。
 コロナ収束に向けて「新しい生活様式」が唱えられ、時間・空間の過密な都会からの脱出を図る動きもあります。UターンやIターン志向の高まりは、人口減少に悩む島にはチャンスであり、受け入れの環境づくりが急がれます。

収穫の始まったニガダケ