29 カマスの塩辛(2019年9月号)

 種子島の夏の風物詩、カマス漁が今年は静かです。湊、伊関、田之脇、住吉といった浦々に恒例の魚群がなかなか現れず、温暖化のせいかと、いぶかる声の一方、スミテ(潜り手)不足、高齢化の影響もありはせぬかとの話も聞こえてきます。
 そのスミテの存在感を示したのは、8月にあった国上夏まつりです。3回目を迎えた今年は地引き網を新調して開かれました。延長180メートル、幅8メートルの網は浦田海水浴場の沖合に投入され、網の両端をバランスよく引きます。袋状にたわませた網に魚を取り込んで逃がさぬよう、スミテたちの働きが極めて重要です。
 海に潜って、網と獲物の様子に目を凝らし、船の仲間に合図を送り、船からは赤白の手旗で陸側に引き方を指示するのです。この日は台風接近の影響で波とうねりが高くなりつつあったので、難しい作業でした。
 スミテは、数多くの漁法が伝わる種子島で、ナガラメなどの潜水漁法だけでなく、カマス、トビウオなどの網漁法でも活躍してきました。
 目玉行事の地引き網を終え、ステージイベント終了後、獲った魚を抽選で参加者に贈りました。当選者らの歓声を聞きながら、地引き網に携わった漁師さんたちも満面に笑みを浮かべていました。夜はスカイランタン、さらに花火で締めくくりました。
 最後に私事ですが、長丁場の夏を乗り切るカマスの塩辛の手作りが、今年は材料不足で遅れ気味ながらも何とかできました。食欲減退に陥りがちな盛夏の備えです。塩漬けした内臓の塩抜きをし、酢を加えます。熟成を待つ瓶詰めを眺めながら、島の漁師文化に支えられている身を自覚しました。

国上夏まつりの地引き網

国上夏まつりの地引き網