28 岳之腰の上昇気流(2019年8月号)

 空飛ぶ鳥は上昇気流を利用して高度をかせぎます。渡り鳥にとって、広大な海に連なる島々は旅の中継点であり、休息の地ともなっています。
 馬毛島に飛来する渡り鳥たちは最高地の岳之腰に発生する上昇気流に支えられています。標高七一メートルの頂上に立つと、麓から吹き上がる風が頬をなでます。
 その馬毛島の空をムナグロやヒヨドリの大群が縦横に移動するのを私は見たことがあります。集団乱舞を眼前にして想い起こしたのは、古代祭祀跡の保有などで世界遺産に登録された沖ノ島(福岡県)のことです。
 今から11年前、台湾から来日した研究者に同行し、玄界灘の孤島、沖ノ島に渡りました。台湾から沖縄、奄美、トカラと続く島々で見られるリュウキュウコノハズクが九州島を飛び越え、周囲4キロの無人島まで渡っている事実に驚き、当時、新聞記者の立場で記事にしました。南北千キロを超えるであろう長旅の途中、ひょっとしたら、馬毛島でも羽を休めているかもしれません。
 馬毛島でトビウオ漁が盛んだったころ、漁師たちはトビウオの群れを岳之腰から探しました。周囲360度が見渡せる貴重な場所です。種子島から日々望む馬毛島は、岳之腰を頂点になだらかな島影を見せています。昔から私たちが慣れ親しんでいる風景です。
 今年1月に訪ねた姉妹都市ヴィラ・ド・ビスポは、バードウオッチングを観光資源にしていると聞きました。渡り鳥を観察するサンクチュアリ(聖域)に馬毛島はならないでしょうか。今年の第50回種子島鉄砲まつりを機に、ポルトガルからアデリーノ・ソアレス市長やボディボード2017世界チャンピオンのジョアナ・シェンカーさんらが来島するので、話題にしようかと思っています。

トーチカの立つ岳之腰。麓にはマゲシカ

トーチカの立つ岳之腰。麓にはマゲシカ