25 馬毛島の朝日(2019年5月号)

 俳人中村草田男に「降る雪や明治は遠くなりにけり」の句があります。「明治」は45年、「大正」は15年、「昭和」は64年、「平成」は31年に改元し、新元号は「令和」です。昭和生まれには「ふる里や昭和は遠くなりにけり」と言いたいところです。
 新元号の典拠が万葉集とされますが、種子島も短歌づくりが盛んです。私が所属する短歌会の例会に先月、久々に参加しました。参加者は自作の歌を持ち寄り、互いに評し合います。次は拙作の一つ。

  馬毛島や朝日が今日もにこにこと
             上がる東に同胞の島

 作歌の動機は過日、馬毛島小中学校卒業生が歌う校歌を聞いたことです。初めて耳にした感動から、歌詞を織り込みました。歌詞全四番の一番は次の通りです。

 朝日が今日もにこにこと/東の空に上がるとき/みんなの小屋から煙立ち/平和な島よこの里は/ああ馬毛島小中学校
(「小中学校」は「しょうちゅうこう」と読みます)

 馬毛島と種子島は、大きい方が小さい方を抱くように並び、血を分けた兄弟のように見えます。人々の思いを共有する、かけがえのない同胞の島だと思います。
 昭和55(1980)年に無人島になった馬毛島の日の出を私が初めて見たのは7年前の夏でした。太陽は種子島の奥から昇ります。漆黒の闇に種子島のシルエットが広がり、馬毛島を包み込むように金色の太陽が空と海峡を赤く染め、母の胎内の温もりを思わせるパノラマがしばらく続きました。
 朝日は、新時代の始まりを思わせます。私は馬毛島が市民の身近に戻る日を夢想しています。

種子島の奥から昇る朝日

種子島の奥から昇る朝日