5 天女ヶ倉の祠(ほこら)(2017年9月号)

 安納芋を産することで日本全国に知られるようになった安納の地に、天女ヶ倉(標高238メートル)はあります。緑のじゅうたんから盛り上がったような山は昔、「アマメガクレ」または「アマメガクラ」と呼ばれました。伝説では、仁王が国上の御崎の岩を持って南に行く途中で立ち寄り、眺めがいいので一休みしました。立ち上がる時に背負いカズラが切れて、岩をほったらかしにして去ったのだといわれます。
 今も、山頂近くには大きな岩の下に祠があります。大石虎之助著「種子島の社寺・民間信仰神」によると、かつて天女神楽神社がありましたが、1929(昭和4)年、現在の安納神社に移されたそうです。祭神は踊りが好きだったので、神楽を奉納したと伝えられています。
 長さ2間(約3.6メートル)ほどの岩が組み合わされたたたずまいは、このほど世界遺産に選ばれた福岡県・沖ノ島の祭祀遺跡をほうふつとさせます。私は沖ノ島を9回訪れたことがあり、岩上、岩陰、露天など古代から連なる祭祀遺跡の厳かな空気を思い出します。
種子島は、赤尾木港での遣明船建造の要請を受けたことがあります。琉球との交易がなされた時代もあります。大陸への航海安全を祈願した沖ノ島のような祭祀が、天女ヶ倉でも営まれたかもしれません。
 今年、天女ケ倉では太平洋から昇る初日の出を望むことができました。山上には夜明け前から大勢の人々が訪れ、金色の御来光を浴びていました。

天女ヶ倉の初日の出

天女ヶ倉の初日の出